阿 純章(おか・じゅんしょう)
天台宗円融寺住職
このたび、臨済宗円覚寺派の横田南嶺管長との対談本『生きる力になる禅語』を致知出版社より発刊いたしました。
同じ僧侶とはいえ、生涯を禅一筋で生きてこられ仏教界を牽引する大人物と、天台宗の一寺院をあずかる住職という、宗派も立場も全く異なる間柄で禅語をテーマに語り合うというのは、おそらく前例のないことです。
とはいえ、それは宗派間の対論というのではなく、またどちらが正しいとか間違っているとか、上か下かという次元も超えて、それぞれの生き方に照らして一つ一つの禅語について思うところを正直な思いで語り合いました。
何よりこの絶好の機会に、私なりに壁にぶつかり悩みながら生きてきた道筋の中で禅から学び得たものを、禅のプロフェッショナルに思い存分投げかけることができたのは、人生またとない大きな学びと啓発になりました。
本書のあとがきにも述べさせてもらいましたが、禅は禅宗だけの専売特許ではありません。もちろん禅宗には禅宗ならではの教えと修行があり、その伝統が師から弟子へと継承され、その中に属さなければ伝えることのできないものも多くあると思います。実際、横田老師とお会いして、臨済禅の精神が宗派の中で脈々と、そして生き生きと受け継がれていることを目の当たりにしました。
それは尊重すべきことではありますが、その一方で禅の教えは全人類の普遍的な素晴らしい財産であり、仏教徒だけでなく、キリスト教徒でもイスラム教徒でも無宗教の人でも、誰もが学び実践し、すべての人々が心の壁を取り払って一つになれる究極の平和の教えではないかと思うのです。なので、禅を仏教や宗教という枠に閉じ込めたままにしておく手はありません。
横田老師も臨済宗に属しながら、一般社会に向けて精力的に禅の教えを広められておりますし、私のような禅宗からすれば門外漢の人間が禅を語るということも、何かの一助になればいいと思っています。
仏教や禅に馴染みのない方にも分かりやすく、タイトルに違わず、読んでいくうちに自ずと生きる力が湧いてくると思います。是非、多くの方々に手に取っていただければ幸甚に存じます。