【テンプル・バトン】ご縁とは?新型コロナウィルスと共に考える(増田将之)。
仏師・加藤巍山さんが行っている芸術家たちの「ア−トバトン」というのがあります。その加藤さんから「僧侶の方も何かで繋ぐのはどう?」との提案をいただきました。世間では、新型コロナウィルスによって大変な状況でありますが、決して一人ではない、いのちのつながり、ご縁、というものを僧侶でつないで伝えられたら有難いと思い始めさせていただきます。
まずは加藤さんよりトップバッターをまかされました、「仏教井戸端トーク」という、地域とお寺の活性化をテーマに主宰しております増田将之(浄土真宗本願寺派僧侶)です。主宰と言っても事務局長、横川さんと2人で運営しておりますが・・・。
僧侶は、仏様の世界を伝えるのが、ひとつの仕事です。お話をしたり、お経を読んだりして、形に表して、さまざまな角度から伝えるという事が、とても大切です。このご縁を、いのちを、バトンとしてつないで伝えて行く、「テンプル・バトン」をはじめたいと思います。ご縁をいただき、つながった僧侶の皆さんにあげていただく内容は、動画でも写真でも文章でも何でもかまいません。テーマは「ご縁」という事のみ。それを伝えていただければと思います。「テンプル・バトン」・・・ちょっとタイトルがダサいですが、そのうち馴染んできて、カッコイイ!になるはずです。
それでは、「テンプル・バトン」スタートします。
須磨寺の小池さん、よろしくお願いいたします。
【テンプル・バトン】その1(真言宗 小池陽人師)
仏教井戸端トークの増田さんから、このような時期だから、Facebookで、僧侶の法話のバトンを繋ぎましょうとお声がけいただきました。
テーマは、「ご縁」
少し長いですが、忘れられない出会いのお話を載せます。
私の中で、まさに一期一会といえる、忘れられない出会いがあります。それは、四国の歩き遍路の中での出会いでした。その日は、大雨が降っており、身も心も疲れ果てていました。お四国には、お遍路さんが無料で泊まれる善根宿やお寺がお堂を貸してくださる通夜堂などがあります。その日、時間的にも最後の札所となる、山の上のお寺で通夜堂をお借りできると聞いて、雨の中、必死に山を登って行きました。
やっとの思いでお寺に着き、納経所の受付の方に、「すみません、今日通夜堂をお借りしたいのですが」と聞きますと、「すみません、もう通夜堂の貸し出しはしてないのです。」と、申し訳なさそうに断られてしまいました。
さて困った、と思って隣に目をやると、ずぶ濡れで、同じように頭を抱えている若いお遍路さんを見つけました。肌は色黒で、髪型はドレッドヘア、汚れた衣服を見て、野宿で回っているお遍路さんだとすぐに分かりました。
私は、その方に「どうされますか?」と聞くと、「下に屋根のある無人駅があったから、そこで泊まろうと思う。良かったら君もどう?」と言われました。「ご飯を持ってないのですけど」というと「分けてあげる。」と言ってくれました。彼は、お参りを終えていたので、先に降りているよと言って別れました。私がお参りして、ポツンとベンチで休んでいると、先ほどのお寺の方が近づいてこられて『やっぱりうちで泊まっていく?』と言ってくださいました。私は、約束しているのでと伝えて断りました。私は、僧侶の姿だったので、お寺の方も安心して声をかけてくださったのだと思います。
無人駅まで降りていくと、彼が駅の柱に紐をくくり、いろいろ干していました。『いや~バックの中、全滅。ビシャビシャ』彼の寝袋から水が滴り落ちていました。『いい感じの試練だ。こういうことの後には必ずいいことがおこるからね』彼のあまりにもポジティブな発言に、私はたじろいでしまいました。彼の名はりょう君。なんと私と同い年でした。私がトイレから戻ると彼は黄ばんだ布を持っていました。『あ、これ?四日間履き続けたふんどし。うん…いけない臭いがするわ…』私は『大変やな』というよくわからない受けこたえをしてしまいました。そのまま、りょう君は調理にはいりました。トマトとピーマンをきざんでいきます。私は、彼がさっきまでふんどしを握っていたことを脳内メモリーから強制的に削除しました。
料理をしながらお互いのことを話しました。彼は親友を亡くし、供養の為に遍路をしていました。友人の実家が徳島にあるので、香川県の八十八番からスタートし、徳島県の一番を目指す逆打ちで回っていたのです。朱印を押してもらったおいずるを、親友のご両親に届ける為に歩いているのだと教えてくれました。順打ちの私と、逆打ちのりょう君が、たまたま同じお寺で出会えたことにご縁を感じました。さっきお寺の人に泊まってく?と聞かれて断った話をすると、『ずぶ濡れで歩いて疲れはてた人を決まり事だからって、追い返してしまうお寺ってなんなのだろう』と話していました。しかし、りょう君は私が断って下に降りてきたことを喜んでいたようでした。そして料理が完成しました。りょう君の愛とか他にもいろいろはいった?パスタができあがりました。トマトが本当においしかったことを覚えています。無人駅の電気が消えないので、寝ることができず、電気が消える十二時まで、お互いの夢などを語り合いました。
朝起きるとりょう君はトマト味噌汁を作ってくれました。とてもおいしい味噌汁でした。そして別れの時がきました。順打ちの私と逆打ちのりょう君は反対方向へ出発します。「連絡先教えてくれない?」と私が聞くと、りょう君は、『なんか、また会う気がするから、あえて連絡先は言わないわ。それで再会できたらすごいじゃん』りょう君はそう言って、見送ってくれました。
お遍路さんの出会いと別れの、人と人との距離感が私は大好きです。すごく仲良くなったり、話したりしても別れる時は、またご縁があれば…と別れる。それでこそ、その時、その瞬間の出会いを大切にしているようで、すごくいいなと思うのです。
あれから十一年。りょう君と再会はできていません。
探偵ナイトスクープにお願いしてみたい気持ちもありますが。絶対だめですよね。(笑)
でもこの出会いは忘れることのできない私の宝物となっています。
長文すぎて、申し訳ありません。
増田さん、以上です。
バトンを法話グランプリの安達瑞樹さんへお願いします。