【テンプル・バトン】その7-1(浄土宗 浅野智弘師)
小川大心師よりテンプルバトンを受け取り「ご縁」をテーマに法話リレーをつながせていただきます。京都東山の永観堂禅林寺を総本山とする浄土宗西山禅林寺派の僧侶、浅野智弘です。
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「クーン、クゥーン・・・」
横たわる白いワンちゃんの周りから離れようとせず悲しげな声をあげる黒いワンちゃん。そんな内容の動画のURLが友人から、印象に残った、と送られてきました。このところの外出自粛要請で、ご自宅で動画などを観てお過ごしの方も多いと思います。私も時おり観ることはありますが、この動物の動画は見ていて気になる事があったのです。白い犬は麻酔でグッタリの状態で、それを亡くなってしまったと勘違いした様子の黒い犬。飼い主さんが引き離しても引き離しても、近づき、寄り添おうとし、うろたえ、クゥーンと力無く声をあげるのです。勘違いからなのでなんとも気の毒なことですが、麻酔から目覚めた後また元気に再会できる姿を想像すると、クスッとこみ上げてちょっと楽しみな気もします。
一方、気になったのは、黒い犬は、横たわっている白い犬が明らかに眠っているのとは違うと分かっていた・・・だから鳴き声を出していたわけです。
そうすると、飼われている犬はいつ「命の終わりと眠っている状態は、違う」ということを知ったのでしょうか。
私たち人間は、看取りの機会があったり、あるいは伝え聞いたり本やメディアで生老病死を知り得ます。コロナウィルスだって自分がかかっていなくても、どんな症状が現われるか知ることができます。イヌ社会ではなかなかそうはいかない。人間が世代をも超えて教えを相続できるのはワン・パターンでない言葉のおかげです。ワンちゃんにとっては教わるものではないわけですから、知識でなく理屈でもなく本能として命を分かっている、ということなのでしょう。ただそこに関しては人間もやはり同じで、自他ともに命に関わる出来事は理屈抜きに緊急事態のスイッチが入ります。それはダイレクトにストレスとなり心に大きな負担がかかってきます。今のコロナウィルスの影響が大きい日常の中で、知らず知らずのうちにいつもよりもストレスを抱え込みやすくなっている、と認識しておくのはとても大切なことと思います。
自分自身、不安や怒りを感じやすくなっているかもしれないし、同じように他者もそうかもしれない。同じ苦しみがあると知れば、愚痴は減り、相手への慈しみの種になり得ます。ご縁次第では、目の前で苦しんでいる人は「私そのものだったかもしれない」のです。また、ご縁は出来事と出来事をつなぐものですが、不安や怒りもつながっていってしまうことがあります。
仏教を開かれたおしゃかさまは、人生最後のお経の中で「自分自身をともしびとしなさい。みんなが幸せになっていく生き方をともしびとしなさい」と残しておられます。私たちは自分自身をともしびとして「何とつながって生きるか」は選択できるのです。
イライラや不安、攻撃的な情報の中ばかりに居れば、はからずもそういう縁を受け続ける。一方で、みんなの幸せのため、癒しや穏やかさや感謝を持つ人と共にあればそのご縁を受けることになるのです。よくない影響を受けているな、と感じる時、まずは自分の心の状態を冷静に受け止めてみましょう。
深呼吸をして、いま、この瞬間に集中する。正しい姿勢、正しい呼吸、そしてリラックス。
心の状態がよくない、と感じたら、今の考え方から距離を取ってみるのはとてもいいことですね。 登山中に山そのものが見えないように、怒りや愚痴の中にあってはその全体像は見えづらいからです。
いま自分のアンテナは、どちらに向いているでしょうか。自己の状態を正しく観察し、苦しくなったら心安らぐ時間と意識的につながりましょう。そして自らをつつむ、たくさんのつながりを味わいましょう。もともと、私たちは途方もない不可思議なご縁のめぐりあわせによって、いまこの瞬間生きています。家族も、友人も、パートナーも、テレビの向こう側の人や外国の人も、みんな一度しかない人生です。誰にとってもかけがえのない命です。みんなが幸せになっていく生き方は、すなわち自らの幸せも願われているのです。
行動は、誰も病にかからないよう感染予防はきちんと。
心は、命に直面する事態だからこそ大きめのゆとりを心掛けていきましょう。
過ごし方によって良いご縁をひろげ、共にこの状況を乗り切って参りたいですね。
合掌🙏
最後までお読みいただき、ありがとうございます。良いご縁がまたつながっていきますように。次のバトンは、熊本の浄土宗西福寺の吉田徹秀(よしだ てっしゅう)師に託させていただきます
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