龍岸寺住職
池口龍法
お盆には、檀家一軒一軒をたずね、仏壇の前でお経をあげてあの世から戻ってきているご先祖を供養する。いわゆる棚経(たなぎょう)である。お盆と言われると、8月13日から16日(ただし関東圏では7月)というのが一般的なイメージだろう。しかし、現実的には、わずか4日間では、全檀家をまわり切れない。かつてはお寺の近くに住んでいた「ご近所さん」が、現在では仕事の都合などで遠方に引っ越されていて、一軒訪ねるごとに相当な移動時間がかかるからである。したがって、多くのお寺では、8月に入ればもうお盆の読経がスタートする。
「ドーナツ化現象」というのは都会の中心部に住んでいた人たちが郊外に引っ越し、中心部が空洞化していくことをいう言葉であるが、お寺と檀家との関係においても「ドーナツ化現象」が起こっていて、深刻な問題になっている。私が住職をつとめる龍岸寺(京都市下京区)の場合、これから棚経にうかがう檀家のうち、1キロ圏内にお住まいの方はわずか15パーセント程度。3キロ圏内でも35パーセント程度である。お盆に訪ねていけないほどの遠方の檀家(たとえば東京や九州など)はここに含んでいないから、全檀家に対する比率を計算すると、この数値はもっと下がる。
遠方に引っ越しても、自分たちの先祖がお世話になったお寺を大事に思い、春夏秋冬にお墓詣りに来てくださる方は多い。これは住職として本当に頭が下がることである。しかしながら、ふらっと訪ねてこられるぐらいの「ご近所さん」とかかわりを深めていかなければ、だんだんとお寺は活気を失っていくだろう。近所に住んでいる人たちのなかには、「昔はお寺の庭が遊び場だった」と懐かしんでくれる人も多いが、年老いたいま毎日足しげく通うのは、お寺ではなく、病院や薬局である。
病院や薬局のほうが居心地いいのは、やむをえないところがある。住職一家が住んでいるお寺は、パブリックな空間であるはずが、プライベートな要素が入り込んでいる。ご近所さんにどんどん使ってほしいと思っても、プライバシーの保護、セキュリティー対策、対応するスタッフの確保など、とてつもなく厄介な問題が山積みである。これらを解決していくものは、ひとえに住職の意欲しかない。しかし、意欲を見せれば、周りは必ずついてきてくれる。
私は先日開かれた総代会(役員会)において以上のような事情を説明したうえで、「信仰心の育成に励むと同時に、もう一本の柱として、地域活性化につとめたい」と相談したところ、この方針を快く受け入れてくださった。私と総代のみならず、いまお寺に顕現中の浄土系アイドル「てら*ぱるむす(※)」のメンバーやスタッフたちを含め、関わってくれている人はすべて、お寺を中心に地域が精神的に豊かになっていくことを願っている。その願いがふくらんで大きな実を結ぶように、せいいっぱい励んでいく。
ご近所さん、お寺にまた戻ってきてください。お待ちしています。
「ご近所(池口龍法)」への1件の返信
[…] 以前、仏教井戸端トークのコラムにも書いたことがあるが、お寺周辺はどんどん「檀信徒のドーナツ化現象」が進んでいる。お寺の境内に墓地を持っている檀信徒さんは、もともとお寺 […]