太田賢孝
(曹洞宗大龍寺住職)
お寺に生まれました。お彼岸、お盆、施食会など、節目節目に家族揃ってお参りに来られる方たちの姿を見て育ちました。子供の頃は、この光景が全国津々浦々に広がっていて、誰もが必ずどこかに「自分のお寺」があるのだと思っていました。
それが大人になって見えてきた現実には、やや違った面もありました。都市部で特定の寺院との寺檀関係を維持しているのは3分の1とも聞きます。無料の電話相談に乗っている仏教情報センターにも関わっていますが「菩提寺の住職さんにはこんなこと聞けないから…」と言って電話を掛けてくる人がけっこういます。とある生協で“いす坐禅”の時間をいただいたら、「仏教や坐禅に興味はあるけれど、お寺に行くと檀家にさせられそうで怖い…」と恐れている人もいました。
寺院の中から見えていた寺檀関係・社会と寺院との関係性は、寺院の外から見返してみると“仏縁の濃い人”も、“仏縁のない(薄い)人”もいるという不安定なものでした。
いま、事務局を仰せつかっている「禅といま」という市民向けの講座があります。「禅をとおして、今をどう生きるか」をテーマに、今年で開講20周年という思い入れのある講座です。興味深い点はいくつかありますが、集客方法は特徴的です。手堅く進めるのなら、同宗派の寺院であったり地元の仏教会などに呼びかけて、ご縁の方を連れてきていただく動員という方法がありますが、この方法だと、「仏縁の濃い人たち」が会場に来られることになるでしょう。
この講座「禅といま」では、“仏縁のない(薄い)人”たちが参加しやすいことを意識してきました。これまで寺院業界が直接の対象としてこなかった人たちが何に興味を示すのか、どうアプローチをしていったらよいのか、探り続ける中で、現在の講座スタイルができてきました。お寺の厳かな雰囲気の中で研鑽を積むのも得るところは大きいですが、「禅といま」では会場はお寺とは限りません。現在は浜松町駅からも歩ける距離のホテルの一フロアを主会場としています。動員を掛ける講座の場合は受講料無料も珍しくありませんが、この講座はきちんと受講料をいただきます。新聞社や旅行業者さんから後援をいただき、彼らのもつ告知媒体で「禅といま」を告知してもらっています。更に今回は講座の構成を大幅に変え、「1日のみの受講」や「1日目は18時から」という体勢をとって、2日間時間を割くのが難しい方や、日中お仕事等の方でも参加しやすい時間設定にしました。
いまは、10月開催の講座に向けて準備を進めているところです。多くの方と新たなご縁が結べることを願って日々を勤めています。
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